ひと房目は、やっぱり酸っぱかった夏蜜柑
明 るく穏やかな陽射しを浴びて、金色に色づいた夏蜜柑が鈴なりになっている。吉田松陰、高杉晋作、伊藤博文など、幕末から明治維新へと歴史を大きく動かして いった志士たちゆかりの地、山口県萩市を自転車で回りながら、街の至るところで、木々が重たい実をたわわにつけている光景に強い印象をうけたことを思い出 す。後で知ったことだが、全国に先駆けて夏蜜柑の栽培を始めたのは萩市だったそう。
子どものころは、食べたあと、歯がキシキシするような酸っぱい夏蜜柑はそれほど好きではないのに、甘いものが嫌いだった兄がぺろりと1個も食べる様子がおいしそうで、ついひと房と手を伸ばししているうち、気がつけば酸っぱくて甘い夏蜜柑のさわやかな味にとらえられてしまっていた。
それでもやっぱり、ひと房目は酸っぱい。想像しただけで、唾が口の中にたまってくる“夏蜜柑”はその後、酸味を押さえ甘みを追求した改良品種「甘夏蜜柑」が登場するや、急速に店頭から姿を消していき、いまや数え切れない品種が出回って、私などさっぱり名前も覚えられない。
甘 夏も甘味が勝ちすぎる気がして、夏蜜柑世代の私には物足りない。牛乳をそのまま飲む習慣も身につかなかったけれど、熟しすぎない(ここが肝腎!)甘夏を入 手し搾り入れたコップに牛乳を勢いよく注ぎ入れたインスタントヨーグルトの味を知ってからは、毎夏、数回は見たところ怪しげなこの飲料をつくるのが楽しみ のひとつ。