ノラ母が ”自力で生きられるように” と
仕事を終えて帰宅し、玄関の鍵を開けようとドアに近づくと、中の方で何やらバタバタと不穏な音がしている。急いで鍵をあけ見渡すと目の前の床に鳥の羽根らしいものも。
また捕まえてきたのか〜。
うんざりする間もなく、何かくわえた風子が鼻息荒く廊下を走り回っている。その勢いのまま玄関へと降り、くわえたものを振り回して遊びに興じているが、すでに塊は動かない。ここにきて同居人の帰宅に集中力が乱れたらしい。何か言いたそうな顔をして私を見上げたが、どうやら小休止を決めたよう。
こちらも慌てていたため、玄関の灯りをつけるのを忘れ、暗い上がり口に仁王立ちになったままだ。風子は台所にある自分の餌を思い出したらしい。踵を返した隙に明るくなった玄関に降りると、小さな塊が目に入った。
雀だ。恐る恐る触ってみる。まだ温もりはあるものの動かないので、風子はもう飽きてしまったんだな。仕方がないので拾い上げ、見つからないよう、コンクリートで固められた庭の片隅にほんの少し土が残っている部分をかき分け、雀を埋めた。
やれやれ。
散らばった大小の羽根を片づけ掃除機をかけながら風子の方を見やると、散々遊んだからか、つい今しがたの興奮がまるでなかったように、落ち着きはらった様子で畳に寝そべっている。ノラの母さんが、親がいなくなっても自力で生きていけるよう躾けたのだろうか。とりとめなく思いを巡らせる同居人である。(よ)