慌ただしく師走に入ってしまい、この一年のことを振り返る余裕もなく押し寄せる雑仕事に追いまくられながら、ふと、世間では夏休みという8月に入ってすぐに、10月刊行が決まった新刊『野草の手紙』(ファン・デグォン著/清水由希子訳)の編集作業で汗まみれになっていたんだったと、思い出しました。
きついスケジュールを喘ぐようにこなしていた日々にあって、それまで、名前も知らずいっしょくたにして見ていた野草も、目の位置を低くしてよくよく見ると、似ているようでも、少し違っていたり、地べたにへばりついている小さな草に数㍉の愛らしい花がついていてハッとしたりと、様々な草たちの生き生きとした姿に元気をもらい、時には食べられそうな草を持ち帰りもして、忙中にもなんとか楽しい時をつくりだしていたのでした。
本の内容は、無実の罪で投獄され、13年にもわたり獄に繋がれた著者が、激しい拷問で死の一歩手前まで追い詰められたとき、いのちや社会の見方への大きな転換を経験。刑務所という限られた空間での小さな生きものたちとの出会いと交歓のなかから、劣悪な環境のなかで生き抜く力をもらったことを、獄中から妹さんにあてた手紙につづったものです。
出版後も、自転車での通勤時、また近くの霊園や小さな公園を歩きながら、自分の目に入ってくる世界が大きく広がったことを感じます。草や花や木々、鳥や虫たち‥生きる営みがこんなに豊かに広がっていたなんて。ついつい立ち止まり、しゃがみ込んで話しかけたり。
画像は、11月の終わり頃、近所の墓地で見つけた野草。立派な葉だけれど、ちぎって噛んだら、からし菜のような匂いが鼻をくすぐる‥名前は知らなくてもアブラナ科はだいたい食べられるもん、と勝手に解釈し、ポキポキ折れるところで適当に採取して台所へ。
大振りにちぎって炒めたら、気になるほどの繊維もなく、軽い苦みと辛みが合わさって、ご飯にも酒の伴にもいけます。あとで調べたら「セイヨウカラシナ」と判明。これから朝晩の冷え込みが厳しくなるから、霜があたって野草のおいしさもアップするのではと、楽しみが増えました。
きのうあたりから本郷界隈ではイチョウの葉が一斉に黄色くいろづいて、風が吹くたび雨のように降り注ぎます。歩道を行く人たちに踏まれながらしだいにしゃくしゃになるにつれ、うっすらと漂いはじめる匂い。晩秋を感じさせますね。ぎんなんの匂いが臭くって触りたくないと嫌う人も多いけれど、私は嫌いじゃないなあ。(よ)
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