☆昼飯コラム☆
焼き菓子がこんなにもおいしいなんて
~惚れ惚れします、オーボン・ヴュータンのお菓子~
久しぶりに買ったオーボンヴュータンのヌガー。自分だけのちょっと秘密めいた楽しみが詰まって
いるような小さな姿が愛らしい。本郷で長年入り浸っている喫茶店の前マスターから弟さんのお店と
聞いていたのだけれど、初めてお店に入ったのはそれから7~8年もたってから。真っ先に目に飛び
込んできたのがこのお菓子と、さざれ石のような姿をしたプラリネ(らしいというのも最近知りまし
た。ワインも洋菓子も名前がちっとも覚えられん!)。
それまで、デパートに出ている名の通った菓子店のや、たまに入った洋菓子店で焼き菓子を買っても、
今度またぜひと いうほどのおいしさに出会ったことがなく、こんなものなのかと焼き菓子類には期待
しなくなっていたのだけれど、この小さな菓子たちの、感覚の扉をつぎつぎノックされるようなおいし
さの攻勢に思いっきり先入観をひっくりかえされるという心地いい衝撃を味わうことに。たった1個の
菓子に詰め込まれた甘さのエッセンスがもたらしてくれる幸福感に、いっしょに食べた事務所のスタッ
フともども、うっとりと吐息をもらしました。
昨年秋に出版されたオーナーパティシエ、河田勝彦さんの著書『伝統=ベーシックこそ新しい~オー
ボンヴュータンのパティシエ魂~』(朝日新聞出版)が話題を呼んでいます。自分の進む道を見失いそ
うになるなど悩みながらも、実力ある菓子職人、料理人たちから貪欲に吸収しつづけたフランスでの若
き修行時代から、日本の洋菓子の頂点にたつ今日までが生き生きと語られています。小麦、ナッツ、卵、
果物、砂糖といった限られた素材の組み合わせから素材のもつ味の可能性を存分に引き出す丁寧な作業
を通して、千変万化のおいしさを生み出す、志高いプロフェッショナルの仕事に賭ける情熱と、愚直な
までの生き方。
焼き菓子といってもデコレーションケーキほどの大きさのものから、ひと口か2口で食べられるくら
いの大きさの、のものまで多彩だけど、ひとつひとつ、どれをとっても(といっても100種類を超え
るらしい焼き菓子のなかから、食べたのはせいぜい15種類くらい…)、違ったおいしさに仕上げられ
ていて、ハッとさせられるのです。黄金率のような、糖度65%~70%という数字から半端じゃない
甘さを想像すると、口に含んで感じる甘さにはいささかの押しつけがましさも、くどさもなく、ついつ
い幾つも手を伸ばしそうに。お菓子にこんな言い方は変かもしれないが、もちろん、ケーキも尋常じゃ
なくおいしい。たまぁ~に、本物の贅沢を味わいたい気持ちになったら、はるばる出かけていっても決
して失望しませんよ。それにしても「甘味」って奥が深いんだなあ。
「すべては、おいしさのために」―、本文のどこかにあった河田さんのことば。お客さんが食べて「お
いしい」と言ってくれる、そのことのために菓子づくりのさらなる高みをめざしていく。どんな仕事に
も通じることと、襟を正す気持ちにもなります。
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